



従来のローコスト住宅からユーザーの住みやすさや住宅の機能性を追求した家づくりへの変革を目指す辻木材株式会社 辻社長と北海道の建築に長く携わっている伊勢一級建築士が機能性とデザインの共存について語る。
Q 建築費とランニングコストの関係について
辻:当社はこれまで、初期費用を抑えた家づくりという路線でしたが、今年私が社長に就任したのを機に、住まいのランニングコストにも目を向けていただく提案を始めました。省エネ性能を高めることが光熱費のロスを防ぎ、結果ユーザーのメリットになるはずですから。
伊勢:建物のライフサイクルコストを考えるなら、まず断熱材は壊れませんから予算をかける価値があります。それからプランニングでも建物全体の性能が左右されるので、性能を捨てて(無視して)デザインだけで決めるのはお奨めしません。この2つは後から変えられないので最初が肝心ですね。
辻:そうした理由から、以前は担当営業だけで対応していたお客様との打ち合わせとプラン作成に、設計担当者も同席させるようにしました。間取りによる家全体の空気の流れだとか、日射に対して窓配置や大きさを調整するとか、熱環境を最適化するのは専門の人間でないと難しいですから。お客様の要望とバランスを取りつつ、性能を左右する部分、コストをかけるべきところはきちんと説明しなければなりません。
伊勢:そこをもう少し掘り下げると、住宅の断熱性能を計算するとき基準となる地域区分が定められていますよね。この地域なら七重浜を境に函館と北斗で違う区分です。安く作ろうと思えばそれぞれの最低限を満たしていればそれでいいんですけれど、あくまで法律上の数字と、建てる一つひとつの土地の実情が必ずしも一致しているとは限らないはずでしょう。本来はその土地に合わせ性能、機能を含めたデザインをしなければならないと思います。
Q 調和のとれたデザインとは?
辻:見た目や雰囲気の意味での「デザイン」は、お客様の理想を全部その通り積み上げても不思議とイメージ通りにはならないものです。要望を聞き理解した上で交通整理をするのがこちら側、プロとしての仕事ですよね。
伊勢:そうです、同じ間取りでも部分的な寸法の違いで部屋の印象は大きく違います。例えば住宅の天井高は現在2.4mが標準的ですが、少し低い2.1mだと落ち着いた雰囲気になります。そこで高低の抑揚をつけたりと、設計者としては限られた予算とスペースでも、どこかで既成概念を崩したいですね。
辻:性能や費用も無視できませんからね。何かに特化するのか、全体の調和を取るのか、制約の中でお客様に満足していただくのは腕の見せ所ですね。SNSなどで情報過多な今、便利な反面ユーザーも混乱しているようですから、ニーズを汲む力やこちらからアナウンスする力も大事になってきますね。

Q 家づくりの情報があふれる今、出口はどこに?
伊勢:家づくりに際しては、どんな家が欲しいか以上に「こんな暮らしがしたい」を私たち専門家に伝えてみてほしいですね。レストランに例えるなら、肉料理のコースでワインはこれ、デザートは…と頼んで、調理法や味付け、盛り付けはお任せいただくようなものです。
辻:同感です。当社のような地域の工務店を選ぶ利点もそこにあると思います。社長の私を捕まえてどんどん疑問をぶつけて解決してほしいのです。多くの現場を手掛けてきた経験と数値でお答えします。願わくば30年後に「この家を建てて良かった」と思っていただきたいんです。
伊勢:住まいは1日の終わりに帰り、心や体を休める空間です。暖かく涼しく、快適な家が人生を変えることさえあると思います。お客様にはプロを信頼して頂き、我々は技術や知識で応え最適なバランスに仕上げる。そうした関係がより良い満足を生み出すのだと思います。

